横浜港の歴史がわかる、日本大通り駅のパブリックアート「横浜港今昔」

みなとみらい線の日本大通り駅の改札前には、ひときわ目を惹く立体的なアートが飾られています。日本大通り駅は通勤や通学でも多く利用される駅なので、この場所を何気なく通り過ぎている人も多いかと思います。見かけたことはあっても、立ち止まってじっくり鑑賞したことはないかもしれません。

このアートは「横浜港今昔」と呼ばれており、国際貿易港である横浜港の深いストーリーが秘められています。

今回は、「横浜港今昔」には何が描かれているのか、横浜港の歴史とともに紐解いていきたいと思います。

横浜港の歴史が描かれたアート

「横浜港今昔」は、「横浜港の開港から現在まで」をテーマに制作された陶版レリーフのパブリックアートです。陶版レリーフとは、焼物の技術を使って作られた絵画作品で、色鮮やかで立体的である特徴をもちます。そしてパブリックアートとは、駅や公園、道路などの公共空間に置かれる芸術作品のことです。

制作者は、トリスウイスキーのマスコットキャラクター「アンクルトリス」生みの親であるイラストレーター、柳原良平さん。昭和の時代にはテレビCMでアンクルトリスが出ていたので、覚えている人もいるのではないでしょうか。

「横浜港今昔」が設置されたのは、2004年のことです。宝くじの普及宣伝事業として、財団法人日本宝くじ協会の助成を受けて制作されました。

3枚の陶板レリーフにはそれぞれ何が描かれているのでしょうか。1枚ずつ、見ていきたいと思います。

横浜の歴史を代表する3隻の船

3面の陶版レリーフに描かれているのは、いずれも横浜の歴史の流れを彷彿とさせるものばかりです。

向かって左面には、ペリー提督が乗ってきた黒船、明治時代の客船「春洋丸」、そして現代の客船「クイーンエリザベス2」の3隻の船が描かれています。いずれも横浜の歴史の1ページを刻んだ船ばかりです。

黒船は、1853年に日本の開国を要求するアメリカの軍人ペリー将校が乗ってきた船です。アメリカ側一行は浦賀(横須賀市)に到着した後、横浜から上陸したといわれています。このレリーフでは、アンクルトリスにそっくりなペリー将校が描かれていますね。かわいらしい雰囲気を醸し出しています。

春洋丸は、20世紀前半に活躍した貨客船で、当時の日本では初めてとなる、1万トンを超えた大型貨客船クラスの1隻でした。関東大震災では、神戸から横浜への支援物資の輸送にも活躍したとのこと。多くの人の移動、そして命までをも救った船なのです。

そして世界が誇るクイーンエリザベス2は、20世紀後半を代表する豪華客船です。世界を巡る船旅において、何度も横浜港へ寄港しました。1969年から活躍し、客船としては2008年に引退。現在はドバイで「クイーン・エリザベス2ホテル」として第二の人生(船生?)を送っています。

こうして横浜港の歴史をそれぞれに刻んだ3隻の船が、歴史を超えて1枚のレリーフに描かれているのです。

横浜港のシンボルだった「3つの塔」

中央のレリーフには、3つの塔が描かれています。

横浜港が日本の玄関だったころ、乗組員にとっては高くそびえる3つの塔が港のシンボルでした。乗組員たちからは、親しみをこめて「キング・ジャック・クイーン」と呼ばれていたそうです。右下のアンクルトリス風の人は、乗組員さんでしょうか。船から港の方向を見つめているように感じられます。

この3つの塔のうち、キングは神奈川県庁、ジャックは横浜開港記念会館、クイーンは横浜税関です。中には震災などで焼失し再建されたものもありますが、昭和初期に建設されたものが現存しています。

そして今もなお、3つの塔は「キングの塔・ジャックの塔・クイーンの塔」と呼ばれており、神奈川県庁と横浜開港記念会館は国の重要文化財に、横浜税関は横浜市認定歴史的建造物になっています。いずれも、横浜市民の誇りともいえる建物なのです。横浜開港記念会館は、老朽化にともない保存改修工事中。2024年の再オープンが楽しみです。

今の横浜の風景といえば、みなとみらい21地区

右面のレリーフには、横浜港で最初に造られた大さん橋、赤レンガ倉庫、そしてみなとみらい21地区が描かれています。多くの横浜市民にとって、慣れ親しんだ風景ですね。みなとみらい21地区の様子も、ランドマークタワーやクイーンズスクエア、横浜ベイホテル東急、そして特徴的な形のヨコハマ グランド インターコンチネンタル ホテルだとわかります。

今を生きる私たちにとっては、この1枚は自分の思い出と重ねながら鑑賞できるのではないでしょうか。買い物に出かけたり、花火大会などのイベントに行ったりした時を思い出すきっかけにもなりそうです。

「横浜港今昔」からは、文明開花の地であり、日本と西洋の文化が混じり合う横浜ならではの風景を感じ取れます。いずれも陶版レリーフならではの温かみがあり、優しい色合いが素敵ですね。

地下鉄の駅にいながらも、横浜港の歴史を見渡すことのできる3面のレリーフは、日本大通り駅を行き交う人々の目を楽しませてくれています。

【スポット情報】
陶板レリーフ「横浜港今昔」
住所: 神奈川県横浜市中区日本大通
アクセス: 日本大通り駅 地下1Fコンコース 改札前

この記事を書いた人

  ライター名  御代 貴子
プロフィール 横浜に何かと縁があるフリーライター。幼少期の夏休みは横浜の親戚の家で過ごし、大学生活も横浜で送る。現在も神奈川県在住。東北の港町で育ったせいか、海辺の街並みが好き。趣味は飲酒しながらの料理。

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