元町・中華街駅から徒歩約5分、代官坂通りを歩いていると、右手に見える細長い階段があります。この階段を登りきると、そこには静かでこぢんまりとした「元町百段公園」があります。
「百段」というだけあって、登った階段は100段あったのかと思い数えてみると94段でした。
あら?名前の通りではない?!
実はもともとあった階段は、関東大震災ですべて崩壊してしまったそう。その後再建されることなくその名残を継いだのが「元町百段公園」です。
今回は「元町百段公園」の歴史や魅力についてご紹介します。
公園の名の由来となった「元町百段」
現在の元町百段公園は、横浜市中区山手町にあります。しかし公園の名前の元となった「元町百段」はもともと別のところにありました。
元町百段公園がある丘は横浜の開港から大正期にかけて浅岡山の見晴台と呼ばれ、とても眺めの良い所でした。
旧横浜村には鎮守厳島神社の末社である浅間神社があり、1859年の横浜港開港の際の開港場調整に伴い、1860年に住民とともにこの丘の上に移されました。
旧横浜村は村民が移住したことで「横浜本村」と呼ばれるようになり、その後明治維新の頃に外国人向けの街として栄えはじめ「元町」と改称されたのです。
この移転の際に、運上所御用船の船頭であった勘次郎氏が、元町の前田橋の先から浅間神社に続く石段を寄進しました。
元町からこの丘の上まで一直線につながっていたこの石段は101段あり「百段坂」や「元町百段」と呼ばれて親しまれました。丘の上には茶屋もあり、居留外国人など多くの人々が訪れる当時の観光スポットでした。
昔はこの場所から、港の出港や入港の様子や関内地区がよく見え、街の風景が楽しめたようです。
浅間神社が富士山信仰の神社であるため、当時は景色の中に富士山が見えたのかもしれませんが、現在では高層マンションに景色を遮られています。
関東大震災により崩壊した元百段
1923年9月1日に発生した関東大震災でこの石段は崩れ落ち、下にある多くの家屋を押しつぶしたため、たくさんの犠牲者が出ました。
その状況は、あまりに悲惨な崩壊を起こしていたため修復することを諦め石段が再建される事はありませんでした。現在は建物に囲まれた崖になっています。
本町百段があった場所のちょうど反対側には、中華街の南門「朱雀門」が見えます。おそらく、当時は元町百段と中華街が一直線につながり、栄えていたと考えられます。
その後1987年に、元町百段を偲ぶため浅間神社跡に元町百段公園が作られました。
入り口には、当時の写真と説明板が置かれています。
ヨーロッパの雰囲気を感じる眺めの良い公園内
公園の場所は住宅街の中にあり静かな場所です。
公園内はきれいに整備され、赤レンガや古代ヨーロッパのような雰囲気がある円柱が8本立っていて、横浜の街を見渡せる眺めの良いスポットです。
遊具はありませんがベンチや水場があり、のんびりお散歩する方にもオススメです。また、迫力のある立派な桜があり本桜の隠れた名所となっています。「横浜で1番の桜!」というほどのファンの方の声もあるので、お花見の季節にはぜひ1度訪れてみてください。
公園内では、草花も植えられており特に無農薬での薔薇の栽培に力を入れています。
無農薬で栽培されている園内の薔薇
「元町百段公園」には、たくさんのきれいな薔薇が咲いています。
こちらを手入れするのは「公園愛護会」というボランティア団体の皆さんで、横浜市内の公園を清掃して緑化活動を進めておられます。
一般的に農薬を使用して育てられる薔薇ですが、こちらの公園では無農薬で植えられています。石川 彌之助理事長が顧問として指導し、横浜市の花である「薔薇」を蘇らすプロジェクトを立ち上げました。
この活動は2016年から始まり、2年間栽培方法や農薬を使わない害虫駆除の方法が研究されてきました。
ボランティアのメンバーが週に2回は公園を訪れ、丁寧に管理。雑草除去や鳥を呼ぶためのバードバスが置かれるなど、薔薇の無農薬栽培活動に力を入れています。
2020年には、元町百段公園における薔薇の無農薬・無化学肥料栽培について「横浜市環境活動賞」を受賞されました。
農薬が必要とされてきた薔薇を無農薬で栽培している珍しい公園です。
景色だけでなく、様々な種類や色とりどりの薔薇を観にいくだけでも、訪れる価値がありそうですね。タイミングが合えば、管理されている方々にもお話を伺えそう。興味がある方は、ぜひ足を運んでみてください。
夜景もきれいな穴場スポット
観光客からも人気があり、眺めの良い夜景スポットも多い横浜ですが、中でも元町百段公園は駅から歩いて行けるオススメの場所です。
ランドマークやベイブリッジ、マリンタワーの夜景が一望できる穴場スポットであり、人通りが少ないのでゆっくりと夜景を楽しむことができます。
もう一つの「百段」
横浜元町には、もう一つ「百段」と名のつくスポットがあります。
「元町百段館ビル」です。
1990年に建てられた、まだ新しいビルで歴史的建造物ではありませんが、石造りでおしゃれな建物です。
こちらも関東大震災で崩れてしまった「元町百段」の史実を伝えるため、その名がつけられたそうです。
横浜元町を訪れた際には、元町百段公園と合わせてめぐってみるのも楽しいですね。
元町百段公園は、人通りが少なく、ゆったりとした時間が流れている公園です。元町や山手散策にピッタリの場所。近くを訪れる際には、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。
【スポット情報】
元町百段公園
住所:横浜市中区山手町56-1
アクセス:JR石川町駅下車徒歩15分、市営バス「代官坂上」下車徒歩3分、みなとみらい線「元町・中華街」駅から徒歩7分