普段は幼稚園児や橋を見に訪れた人々の姿も見られ、野毛山公園を代表する景観の一つとして人気を集めています。
橋を渡った先には、見晴らしのよい展望台や芝生広場などがあり、テレビやドラマなどの撮影にも使われています。
1人の市民の、子供達の安全を願う声をきっかけに誕生した「野毛のつり橋」の魅力についてご紹介します!
野毛のつり橋が建てられた歴史
1970年6月28日に「一万人市民集会」が開催されました。その中で1人の老人が「動物園と児童遊園が道路で二分されており、子どもたちの往来が危険だ。地下鉄か歩道橋を設置してほしい」と訴えました。
それを聞いた当時の飛鳥田一雄市長は、さっそく実行することを確約して直ちに着手し、翌年の3月に完成しました。
子供を想い訴えかける市民の想いも、その声を聞いて実行する市長の姿勢も素晴らしいですね。驚くのは完成までの期間。9ヶ月ほどで建ってしまいました。今では考えられないスピードです。
デザインを手がけた柳宗理氏
この橋のデザインは、日本を代表するインダストリアルデザイナーの柳宗理氏に依頼されました。世界で活躍されたデザイナーです。
柳氏は、1950年〜60年代の戦後復興期から高度成長期にかけて、日本のモダンデザインを支え、その確立と発展を支えてきた功労者と言われています。
ユニークな形と実用性を兼ね備えた作品が多く、代表作のバタフライチェアーの他に、鉄鍋などのキッチンツールが有名です。今でも愛され続ける作品であり、一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。
身近にあるものだけでなく、橋も手がけていたとは驚きですね。
当時建てられていた橋は、機能性が満たされていれば美観まで考えられていないものがほとんどでした。つり橋型(斜張橋型)の歩道橋は、当時としては前例のない画期的なものだったようです。
しかし柳氏は、土木構造物を魅力的にデザインすることで都市空間の質をあげようと、この橋もこだわりを持ってデザインしたそうです。今も広く市民に愛されるわけは、そんな柳氏のおかげかもしれませんね。
橋下の道路には石畳が敷かれていて、橋との組み合わせも素敵な雰囲気があります。機能としてはただの歩道橋ですが、つり橋になってるところが魅力ですね。緑の色調も、周りと馴染んでいて美しいです。
柳氏は、公園内の標識や看板のデザインも担当しているため、デザインが好きな人にとっては胸が高鳴るスポットとして、訪れた人々を楽しませています。
橋の上からは、みなとみらいの絶景が眺められ、ランドマークタワーも見えます。天気が良ければ富士山も見渡せるため、散歩やドライブの途中に立ち寄るスポットとしてもオススメです。
橋名にはつり橋とありますが、実際の構造は斜張橋です。
【吊り橋と斜張橋】
2つの橋はよく似ていますが、建築方法が異なります。
・つり橋
主塔から対岸の主塔へとケーブルをかけ、そこから伸ばしたハンガーロープで橋桁を支える建築方法
・斜張橋
太くて丈夫なタワーからケーブルを斜めに張り、複数の長いケーブルで橋桁を吊る建築方法
名前の由来は小学生からの公募
橋名は地元の小中学生から公募して「野毛の橋」と「つり橋」を合わせて「野毛のつり橋」と命名されました。
橋に設置されている概要には「斜張橋」と表示されていますが、小中学生にとっては「つり橋」に見えた気持ちを否定せず、そのまま橋の名前に付けたのかなと思い、優しさを感じました。
小中学生から名前を公募をすることにも、ここに歩道橋を作ってほしいと訴えた、子供達を想う市民の気持ちが表れているように感じますね。
現代では考えられないほど素早い決断、行動力は昭和の時代のなせる業だったのかもしれません。
野毛のつり橋の周辺施設
橋の周辺は下記の3つのブロックに分かれています。
- 野毛山動物園
- 展望地区
- 散策地区
1日遊べそうなほど充実した施設があり、子ども連れや家族でも楽しめます。
他にもある!柳宗理のデザインに出会えるスポット
さらにオススメのスポットがあります。
実は、近くには野毛のつり橋の他にも柳宗理氏のデザインが見られる場所があるんです。
1つ目が「横浜市営地下鉄」です。
1972年の横浜市営地下鉄開通にあたり、様々な備品や設備をデザインしました。
- 自動改札口
- 自動券売機・精算機
- 売店
- 電話ボックス
- プラットフォームの時計や消火栓
- 水飲み場と水汲み場
- ベンチ
- 背もたれ
- ゴミ入れ、灰皿
- 広告ケース等
駅周辺をトータルデザインし、パブリックデザインの先駆けとなりました。
”柳の造形へのこだわりが時として周りの人を困らせることも多々ありましたが、当時の飛鳥田一雄横浜市長の右腕・企画調整局長を務めた田村明氏(都市設計家)は、「普通の歩道橋に比べコストが数倍掛かるかもしれないが、こういうものは文化的に残ってこそ価値がある」と、柳のデザインを後押ししたそうです。”
”空間と時間、行政手続き等の制約が多いなかで、行政とデザイナーが協力し合うことによって、身近な市民生活に係るデザインの有意義性について示した早期の実例ではないでしょうか。柳は飛鳥田さんそして田村さんお二人のことを、デザインする上では欠かせない優秀な協力者であり、社会的にも必要な理解者だったと言い続けていました。”
それほどまでにこだわりのあるものが作られ、日常に溶け込んでいるのはとても贅沢な空間だなと思います。日常的に利用している方々は、日々目にしているそれがあるのは当たり前になっていることもありますが、改めて見てみると面白い発見があるかもしれませんね!
柳宗理氏のデザインが見られる場所の2つ目が「大岡川人道橋」です。
あまり知られていないようですが、こちらの橋も柳宗理氏がデザインされたようです。この名前は整備の段階でつけられていたもので、現在は「さくらみらい橋」と呼ばれています。
横浜には赤レンガ倉庫など、おしゃれなスポットも多いですよね。素敵なデザインの建造物が身近にあるのは、日常が楽しくなっていいですね!
野毛のつり橋の周辺は、春になると桜の名所として賑わい、3月から4月の見頃の時期には多くの人が訪れます。市民に愛され、この橋を見るために訪れる観光客もいるという「野毛のつり橋」ぜひ訪れてみてくださいね!!
【スポット情報】
野毛のつり橋
住所:横浜市西区西戸部町1丁目69-7